さりげなくニュース2009.8.09(NO.96)


   オバマ米大統領は7月6日ロシアを初めて訪問した。12月に切れる第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約をなすための枠組みを煮詰めるための訪問であった。
 
  現在米ロ間で問題になっていることが全然ないというわけではない。そんな蜜月はほんの一時でしかなかった。ブッシュのやりたい放題に、苦虫をつぶしている期間のほうが長かった。
 
  現在の懸案の問題点はいくつかある。かつてソ連邦を形成していたグルジアやウクライナの親米化によるNATO加盟問題、コソボの独立にかかわる承認の問題。 
 
  ロシアが一番恐れていることは、東欧に配置しようとしている西側による米ミサイル防衛(MD)である。これにより将来的に、ロシアの核戦略が封じ込められると危惧している。今回の戦略核削減交渉で、アメリカ側は、このMDには触れることはなかった。
 
  オバマ氏はこの交渉をなす前にノーバヤ・ガゼータ紙を特に選んで取材に応じている。ノーバヤ・ガゼータ紙といえば、チェチェン記事でプーチン氏を批判し続けたことでその命を絶たれたと言われているアンナ・ポリトコフスカヤ記者が在籍していた新聞社である。そこでの発言内容はウクライナやグルジアに対してオレンジ革命やバラ革命を仕掛けたときの基本理念であるアメリカ流民主主義の輸出、それを彷彿させるような理念をロシアという本体に投げかけている。ゴルバチョフを騙せてもスパイ機関出身のプーチンに対しては逆効果でしかない。オバマ氏は、純真に一途なのか、それとも仮面を被ったしたたかな人物なのか。
 
  オバマ氏は野党指導者との対話で列挙する。「米国は民主主義の味方」、「報道の自由」、「政府の透明性」、「集会の自由」。完璧に米国嫌いのプーチンは、この言葉を聞いて何を思うか。ましてや有色人種に対しては偏見を持つ土地柄である。プーチン氏のさやあては、オバマ氏に対するいっさいのねぎらいやお世辞を抜きにするというものであったと報道されている。
 
  戦略核削減交渉の数字は1675〜1500.この削減数をどう読むか。7月8日朝日新聞社説は、冷戦直後に比べると四分の一に減らすなど野心的内容。冷戦思考のもとで減らせる限界まで踏み込んだ。7月8日付け読売新聞社説では、削減数だけを提示してその数に対するコメントはない。ただ、さらなる削減を期待している。毎日新聞7月7日社説では大きな成果であるとして、核兵器の保有が許されていない国の非核化を望むと結んでいる。産経新聞だけは、同盟国に提供する核の傘の機能低下に懸念を呈している(7月8日主張)。ブッシュ時代に国連大使を務めたボルトン氏は、愕然とするほどの低い数字でありオバマ政権はロシア側から全く譲歩を引き出せなかったと批判している。
 
  今回の米ロ核軍縮交渉には場外バトルというおまけまでついた。オバマ氏の訪露から数週間も経たないうちにバイデン副大統領のロシア批判が噴出したのだ。これにはロシアもびっくりといったところだ。
 
  もうロシアという国は人口減の基調にあり、しおれ加減な経済、銀行システムは15年と持たない。世界は変化しているのに持続不可能ななんらかの過去にしがみついているだけの国だ(NYT:JULY 26,2009)
 
  冷戦思考からいまだ抜けきれないロシアを指しているのか、あるいはアメリカ側としては、グルジアへのロシア軍の侵攻を古いソ連時代の名残りと見ているのか。
 
  バイデン氏はこうも主張している。前政権においてロシアがイラクにちゃちゃを入れないからと言ってブッシュがチェチェンに手打ちをした、そんな事を言う者があるがそれは違う。