さりげなくニュース2006,5.14
三月三十一日、青森県六ヶ所村に建設された大規模再処理工場での実際の使用済み核燃料を使っての試運転が行われた。これまで使用済み燃料の再処理はイギリスやフランスに委託してきた。2004年現在日本は四十三トンのプルトニウムを保有しているが、そのほとんどを委託に頼ってきたものだ。六ヶ所村の再処理施設がフル稼働すると一年間に八トンのプルトニウムを取り出せると言われている。これは核兵器一千発分に相当すると見られている。北朝鮮が〇・〇一トンのプルトニウムを取り出したのではないかと大騒ぎしたことと比べるとケタ違いな規模である。
今世界の原子力発電所の主流は経水炉でMOX燃料というプルトニウムとウランの混合燃料を使っている。これが俗に言う「プルサーマル」(プルトニウムのプルと軽水炉のことでもあるサーマルリアクターのサーマルをくっつけた言葉である)。
日本の第一次エネルギーに占める原子力の比率は十三%である。フランスのほぼ四割近い比率はダントツとしてもアメリカやイギリスの八%台に比べては多いほうだ。世界の平均では六%という数字である。<BR>
原子力発電の原料であるプルトニウムは本来自然界には存在しない物質である。自然界に存在するのは燃えやすいウラン235と燃えにくいウラン238がありこの238は原子炉のなかで中性子を吸収してウランより燃えやすいプルトニウム239に変わる。
燃料として使いきった高レベルの廃棄物はどう処理されるのか。プルトニウムの放射能の半減期は二万四千年である。我国の「中間貯蔵施設」としては六ヶ所村であり、最終的には地中深く埋めることになるのだが今はガラスと混ぜてステンレス容器に入れて保管されている。これを称して巷では「トイレなきマンション」と揶揄されている。
我国は実質的核保有国であるが核は保有してはいない。政策としては非核三原則があり、原子力基本法で「平和目的に」限っている。それに核不拡散条約(NPT)に加盟して核を持たないことを国際的に約束してもいる。しかしいざとなれば、いつでも核を保有できるが保有しない。核保有国の末端に名を連ねているよりも核をもたない多数の国の代表としての立場が有利だという判断も選択肢の一つとして理解されているのかもしれない。とにかくプルトニウムを取り出せる施設は核兵器の製造に直結する技術であることを世界は知っているし注目もしている。この施設を日本に限って認めたアメリカはNPT体制の分裂、崩壊の危険性よりも同盟を優先したと捉えかねないと一部指摘されている。
麻生外務大臣がラムズフェルド国務長官との会談で中国、北朝鮮脅威論に基づく我国の核武装化の発言を極論としても四年前の阿部内閣官房副長官の政府答弁としての「戦術核の使用は合憲」といった核に対する考え方は以前に比べて柔軟になっている。改憲が俎上に上りだした時代の反映と理解可能なのかもしれない。
補論
現在原子力発電の主流は経水炉であるが、つい最近までは核燃料の無限のリサイクルと期待を集めた高速増殖炉であった。我国では95年ナトリーム洩れの火災事故を起こした福井県の「もんじゅ」が記憶に新しい。今実用化に失敗して世界はこの炉から撤退しているのが実情だ。
余談になるがプルトニウムの命名はギリシャ神話の地獄の王プルートより名づけられたと言われている。1gで数百万人を殺す猛毒性を有するところからの命名であろうか。20年前に溯ること旧ソ連ウクライナ共和国で起こったチェリノブイリ原発事故はウクライナの国土の8%にあたる約5万平方キロを汚染した。広島型原発の約500発分の死の灰が降り注いだと言われている。被災者認定は260万人に達しその支援は毎年600億円近くに達しウクライナに重くのしかかっている。ウクライナは長らく経済停滞が続き独立後欧州のなかで最下層水準となっている。(国連の推計では今後癌や白血病での死者は4000人に達する模様)