さりげなくニュースNo.288

「ヨーロッパの心象風景」

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 先ごろのG20で各国の元首が一同に集った。トランプ、アメリカ大統領は一際協調性に欠けていた。一人、粋がっているような態度であった。今のアメリカのそして行く末のアメリカを暗示しているようでもあった。

 冷戦に勝利したころがアメリカの絶頂期であった。それは他でもなくロシアに屈辱をあたえたものであった。単なる勝利に留まらず歴史を思い浮かばせずにはおかなかった勝利である。ナチスを滅ぼしたのは連合軍である。その実態は地上戦におけるロシア軍の勝利であった。連合軍のなかでロシア軍が九割以上を占めていたからだ。このことはドイツ人なら自明なことであり冷戦に勝利したアメリカのはしゃぎぶりにはしっくりしないものがあったはずだ。

 メルケル、ドイツ首相はG20を終えて自国に帰るやいなや間髪をいれずに自国で演説をなした。もうこんなアメリカにはついていけないような心情を吐露した。

 ドイツがアメリカを恐れなくなったのは何時ごろからであろうか。それはドイツ人がドイツを恐れなくなったときと期を一にしているはずだ。わが国にあって日本人が日本を恐れている心性とは大きな違いである。それは隣人との関係を抜きにしてその違いを論じることはできない。

 ドイツの場合、フランスとの関係が重要である。フランスはもともとはイギリスとの関係が深い。ヨーロッパで唯一イギリスとの貿易が黒字であとはすべて赤字である。またイギリスに住んでいるフランス人の数はドイツに比べて断然多い。そんなわけで、歴史的にフランスはイギリスと一緒になってドイツに対するバランサーの立場であった。そのイギリスがEUから離脱するということは、ドイツとむき出しで一対一で向きあわなければいけなくなる。イタリアがその立場の代用としては役不足である。これまでもフランスはドイツに従属してきたが、これからはなお一層、ドイツの強権のもとにひれ伏すことになる。

 ドイツがアメリカを恐れなくなった兆しはイラク戦争への反対の頃から顕著になってきた。一方のフランスはエリート育成に特化したグランゼコールがあるがノーブレス・オブリュージュというエリートのもつべき義務とは程遠く尊大さと他人を見下すだけものとなっている。これはわが国の赤レンガ派の尊大さよりは数倍も強力なのかもしれない。わが国の場合は、赤レンガ派、なにもしなくても出世が保障されている第一のコース、それに閨閥からのし上がる者、たたき上げの成果をだして何ぼのものの勢力が加わる。どちらの国がどうなのかはさておくとして、ドイツはアメリカを恐れなくなった。わが国は徹頭徹尾恐れている。この違いが戦後分岐した。

 フランス一国ではドイツの強権を押さえつけることは不可能である。ドイツの緊縮政策の果てEU内の失業率は高まり、その受け皿としてドイツは若者を積極的に受け入れ、産業の飛躍的上昇を目論んでいる。わが国との決定的な違いである。民族純潔を優先するわが国は労働力不足をテクノロジーで補おうとする。どちらがどうとは簡単に白黒つけうる問題ではない。

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