さりげなくニュースNo.281

「トランプ氏が打倒される要因はあるか」

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 トランプ米大統領は午前三時に当時の安全担当補佐官に電話をかけて尋ねたという。朝の三時というのもたまげた時間である。ドルは強いほうがいいのか、それとも弱いほうがいいのかという質問であった。フリン氏は経済の専門でないのでエコノミストに聞くべきだと答えたという。

 トランプ氏の頭の中には回答がすでにあったと思われる。しかし確信はなかったはずだ。なぜならアメリカは第二次世界大戦後の、世界への大ぶるまいをできた時代は、遠くになりにけりなのだ。極端に言うならば世界はアメリカを必要としていないけれども、アメリカは世界無しには生きてはいけないシステムになっているのだ。弱いドルを武器に中国の製造業に対抗しようとするならそれは淡い幻想と化する可能性が高い。

 アメリカの貿易赤字は1990年代の1,000億ドルから2000年代の4,500億ドル、2016年現在の7,300億ドルと上昇している。賃金格差を狙って低賃金地域に工場を移した結果としての、国内製造業の衰退である。アメリカ人が生活水準を落とさずに暮らしていけるためには貿易収支を含む経常収支の赤字分をファイナンスしないといけない。それにはアメリカにカネが集まるシステムを作り出さないといけない。それには強いドルである必要がある。その目的のためには政治的、軍事的に強いアメリカであることを演出しつづけなければならない。それが中東の弱い国を攻め続ける本当の意味である。またISというイスラムの軍事戦闘の組織に対してテロ集団というレッテルを張り、正義の成敗の役割を演じることになる。終わることのない紛争であることが理想でもある。この悪者集団との戦闘で一般市民の無差別の殺戮がアメリカによっておこなわれるのは、わが国にも重大な責任の一端がある。有史以来初めての核爆弾による大量殺戮が、人類に対する犯罪であるという議論を徹底してなしえなかったことによる。

 トランプ氏の頭は保護主義に傾きかけている。グローバリズムでほんの一握りのものが儲けるだけ儲け、その結果、国内の産業は壊滅的ダメージを受け貧富の格差が拡大してしまった。国民の半数は年収300万円以下に甘んじ、老人の6人に1人が貧困線、1日1.25ドルをさ迷っている。その一方で一流企業CEOの平均所得は労働者の平均所得の343倍となっている。上位1%で40%の金融資産をもち、彼らの平均所得は1979年から2007年までに34.7万ドルから130万ドルまで伸びている。中間層の伸びはその間わずかなものである。

 トランプ氏の敵がこれら裕福層であれば難敵であり、倒される可能性もある。

 アメリカの国が病めるほどに、また経済力が相対的に弱まる程に外交、軍事的に過大な拡張が派生していくと考えられる。だが現実問題としてアメリカが仮想敵国として実際に立ち向かえるのはイラン、イラク、北朝鮮レベルとみられている。政治的に世界の中心に留まるためには軍事力の誇示が必要なところであり、それには、弱いところを攻め続け、テロとの戦いもその延長線上にある。(イスラム世界において精神的近代化の時点では、ときにイデオロギーの暴発をともなう。西洋の歴史が血まみれの政治的局面を経たことと同様である。)

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