さりげなくニュースNo.273

「没落過程にあるアメリカ労働者階級」

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ここに一つの数字がある。アメリカの貿易赤字についてである。

 1990年から2000年までの間にアメリカの貿易赤字は1.000億ドルから4.500億ドルに増加した。対外収支均衡のためには同額の外国資本のフローを必要とした。

 これを実現するには、アメリカの帝国として素顔を見せることになる。アメリカは世界経済全体から金を取り立てる能力を拡大させることが要請される。それには、自国の生活水準を維持するため、覇権を維持する必要がある。今後も政治的、軍事的に闘い続けなければならない。

 ローマ帝国の場合には地中海を支配してからは、エジプト、シリア、ギリシャから大量の農産物と製品が入ってきた。諸外国への覇権の確立した理想的姿である。ローマ市民はパンとサーカスを政府から与えられ労働から解放された。

 産業を失った労働者階級は物資の供給が途絶えた時点で崩壊することになる。

 帝国の一つの要素として磐石なイデオロギーが必要である。他国を攻め入る場合も同じことではある。アメリカにおいて経済的なイデオロギーは自由貿易を賞賛する自由主義経済理論である。アメリカの一流大学で唱えられ、わが国にも取り入れられ、この理論に基づかないものは大学に職を得ることはできない。

 これはグローバリズムという方向とも密接に関係している。

 ここに一つの数字がある。

 アメリカの上位400人の金持ちは2.000年には1990年の10倍になっている。この間国民生産は2倍になっているだけである。

 もう一つ、国民所得が上位5%に吸い上げられる割合は1980年の15.5%から2000年には21.9%になっている。

 もう一つの数字は1994年から2000年の間に金融、保険、不動産は工業の2倍の速度で成長したというものである。工業生産の123%に相当する価値を生産したとなる。

 このような経済はいったいどういう経済なのだという疑問が呈されてもおかしくはない。

 アメリカは経済的な面から言えば帝国であり、貿易収支の赤字は帝国が徴収する課徴金という捉え方が可能である。それは、アメリカ社会は経済的には世界全体にとっての国家となったと見られる。

 上層階級は利潤の飽くなき増大をめざして全世界的に競争の原理を導入しようとする。そのことは総賃金の停滞を招き、縮小された賃金には増大する生産を吸収する力がなくなっている。それで、世界的景気後退の説明がつく。デフレの説明も同様につく。

 アメリカの軍事力は世界の三分の一という規模ではあるが、それは一国の統治にとっては規模が大きすぎ、しかし遠くユーラシアを含めた覇権にとっては心もとない。正確なところは、がっぷり四つに地上戦で戦ったことの無いアメリカ。最近の戦争理論は人命をとことん失わないような仕方である。それは帝国の領土的確保にもとるものである。

 アメリカは経済的には依存的で、政治的には無用の超大国。世界は今後どうしつけていくべきなのか。

 

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