By kiyoaki Wada
このところ中国はわが国に対して強気に出てきている。
ケ小平の遺言でもある、列強の挑発には国力が付くまではじっと耐えよ。その呪縛から解放されたかのように中国は海洋へと進み出てきた。
一脅しの下、イギリスから香港を奪い返したのは、眠れる獅子と蔑称された弱い時代の中国との決別であった。一種、強権的に歴史の変更をなしえたものと考えることもできる。
尖閣問題がここまで悪化したそもそもの始まりは民主党政権下での国有宣言であった。なぜに、この時期にこの無人島の国有という中国を逆なでするような行為に及んだのかは、本質の観点から見つめなおすことが必要である。
そして今この時期に中国はADIZ(エアデフェンス アイデンティティ ゾーン)防空識別圏という、空の防衛上の空域を尖閣周辺に設定したのかを考えなければならない。中国のこの行為は、これまでアメリカが設定してわが国がそれを踏襲してきたものへの変更を中国があえて行ったことである。
アメリカはすかさずその空域に爆撃機を飛行させて中国を威嚇した。また、尖閣は日米安保条約の第五条での防衛する地域に含まれることをヘーゲル国防長官の談話として発表されている。
アメリカの決めた歴史に変更をなす行為は、アメリカを恐れていないから出来る行為である。中国はケ小平の時代の卑屈さから、まだ長い年月を経過していないのに、それほど急激に強くなったのか。たぶんそうではあるまい。今回のADIZは、オバマ大統領のアジアへと軸足を定めるという真意をテストするケースとしては最適だ。その布石はオバマの中にすでに用意されていたことでもあった。シリアを攻め切れなかったことは、中国に多大なメッセージを与えてしまった。またイランとの和解は、もう一つのメッセージを中国に与えてしまった。これまで一番忠実なサウジアラビアとの同盟関係の危機である。サウジの敵対国であるイランに歩み寄るアメリカを目の当たりにみた中国はわが国とアメリカの同盟関係に、ある示唆を感じ取ったとしても不思議ではない。わが国とのちょっとした軍事上の小競り合いがあったとしてもアメリカは本格的に出て行かないというメッセージを間違いなく受け取ったはずだ。
アジアはまちがいなく軍拡の時代に突入した。先頃中国は自前の無人ステルス機を飛ばし、二つの海を5ないし6つの攻撃艦隊で制覇する戦略を打ち立てた。一方のわが国の軍備拡大は着々と進行途上である。軍艦や航空機への出費が昨年より23%も上回っている。
アジアの軍拡競争の経済的意味には二つがある。一つは、元財務長官のサマース゛が好んで使う言葉に(secular stagnation)現実の景気停滞感がある。西洋がその状況に置かれているのは工業の中心が中国にあり、その貿易上のギャップがあるという認識である。ではどうすればいいか。中国の蓄えをずぶ濡れの状態にすればいい。ジョーク的に言えば西洋の景気のためにケイジアン的公共投資すなわち軍事費に支出してもらう。同じようにわが国に対しては、アメリカ国内で予算が減らされた軍事産業の生き延びのためには、わが国が肩代わりすることが有無を言わさずの要請となる。
アジアの軍拡の経済的側面は置いておくとしても、わが国と中国の間にホットラインがないというのは、あまりにも危険なことだ。あの冷戦時代のソ連とアメリカの間にさえホットラインはあった。