「ヨーロッパ通貨同盟の未来は明るいか」
2013.11.24
By kiyoaki Wada
欧州中央銀行ECBの11月の金利は0.25と限りなくゼロに近づき始めて来た。これまでは、0.75から0.5のあいだを推移してきた。
債務危機に苦しめられ続けた南ヨーロッパのラテン語族がドイツの中央銀行の政策である折り目正しい規律に反撃を開始したかのように見える。アメリカを初めとするアングロサクソン張りの通貨緩和政策QEにヨーロッパも遅ればせながら参加してきたといった感じだ。
ECBは、札をプリントする体勢でスタンバイしている。一方、インフレには過度に神経質なドイツの叫び声も一方で聞こえてきそうである。
EUというこれほどまでの政治統合をなしえたものを些細な金利政策の不一致でドイツがユーロから離脱するという軽率な行動は、ありえない。
ところでEUの政治統合はユーロという単一通貨による通貨統合でもあった。それは、通貨同盟であるEMUに結実している。そこには、数々の思惑があった。一番は、90年のドイツ統合でドイツは強力な国家に生まれ変わることが予想された。第四帝国の悪夢である。ドイツの通貨主権をEMUに移譲させることにより他のヨーロッパとの力のバランスを保つ。これが地政学的には重要なポイントであった。そのことを思い起こす必要がある。ドイツ側の胸算用としては、マルクよりは若干弱まったユーロにより輸出への追い風になりえた。(話は脱線するが、これと似通ったところでは、わが国とアメリカとの関係がある。対米従属は、大日本帝国の再来を制度的に封じ込めるものとして対米従属は機能している。対米従属が機能しているから平和憲法が人口呼吸器を外さずに存在している。平和憲法の位置づけとはその程度のものでしかない)
この13日のロイター通信が伝えるところによれば、ECBに動きがあった。キプロス危機で大口銀行預金者にたいしても責任の一端を背負わせたと同じベイルインを3年前倒しする議論が始められている。
銀行が倒産すれば、銀行債券保持者が損を蒙るのは当然である。危ない銀行へつぎ込んでいた資金を逃避させないのが悪いだけだ。ところが大口の預金者にも責任の一端を背負ってもらうというベイルインは2015年から始まろうとしている。投資家はそんなことは出来はしないだろうとたかをくくっているのか銀行債への需要は衰えをみせていない。
ユーロ圏加盟国の銀行の発行済み無担保債は、全体で8,600億ユーロ、そのなかでもドイツ2,000億ユーロと多い。
ベイルインには、ドイツ中央銀行も賛意を表明、同様に欧州中央銀行ECBも支持を表明している。
キプロスでの大口預金者がとばっちりを食った事に対しては全面的に非難し得ない一面を持つ。それは預け入れ資金にはロシアからの怪しい金が相当数含まれていたという事情によるからだ。そうでもない限りは、善意の預金者は倒産に係わる責任の一端を担うのは不条理というものだ。だが、近々ユーロ圏において新法は導入されそうだ。
EU成立の思惑や地球上でやがてはリーダーとなりえる素質を有するドイツ(わが国も含まれる)という個別国家の存在から推し量って、ドイツとユーロという重石の関係が、日本と対米従属という、似通った重石の関係を想起させる。
制度の重石はやがて取り除かれることも想定のうちに入れておくべきことかもしれない。