「中国とミドル・インカン・トラップ」
2013.11.10
By kiyoaki Wada
この11月9日から11日までの3日間は、注目すべきエポックだ。
良きにつけ、悪しきにつけ、隣国中国は、あなどれない大国になりすぎた。その中国の新リーダーとなった習近平による共産党第3回全体会議(3中全会)が開催される。今後、習政権10年を占う重要な指針が表出されることになる。
これまでの3中全会の足跡を見てみると、そこには中国の指針がしっかりと納まっている。古いところでは毛沢東が死去して、4人組が排除され、文化大革命が終結した時期、社会主義近代化路線にスタートの号砲が鳴らされた。1978年の第11期である。第14期も無視しえない重要な方向性が示された。ソ連が崩壊した2年後に開かれた。そのソ連の崩壊は経済の失敗にあるという観点から、中国に市場経済が導入されることになる。赤い猫だろうが黒い猫だろうが鼠を獲りさえすればいい猫だと言ってのけたケ小平の時代が始まる。ここに、経済発展の基調を確かなものとしたが、今につながる苦悩を引きずる種を蒔くことにもなった。先頃のリーダー胡錦濤の第16期では、均衡、均衡というフレーズが叫ばれた。地域間の均衡、社会発展、経済発展の均衡。国の問題点が顕になり始めた時期といってもいい。
さて、今回第18期3中全会の主要な議題は何なのか。中国今後10年の指針が示されることになる。
現在の中国が置かれている経済の状況は停滞という言葉に集約されるのかもしれない。7%台の世界で最高の経済成長率を誇る国に対して停滞というレッテルを貼ることは不適切かもしれない。しかしあえて停滞を予感させるという言葉を発することは十分に意味あることに違いない。
中国首脳部は、ミドル・インカン・トラップにはまったと感じているはずだ。すなわち、低所得国から脱皮し中所得国になった今、高所得国に抜け出せず経済が停滞してしまう。このミドル・インカン・トラップという言葉を名づけたのは世界銀行であった。当時同じ問題をかかえていた南アフリカやブラジルにたいするものであった。
この罠から抜け出すには、相当な覚悟をもった経済リフォームに打って出る必要がある。しかし事はそう簡単なことではない。安い賃金に引っ張られた輸出主導の産業、消費のウエートが極端に低レベルな投資主導の経済。どれ一つをとっても簡単にリフォーム出来る代物ではない。
一党独裁、一つのイデオロギー、国家権威主義体制の国に安易に民主主義という西洋の主流言語をあてがうべきではない。しかし、輸出も頭打ちになりつつあるとき、さらに輸出が隆盛を極めるには、付加価値生産へのイノベーションが是非とも必要とされる。また、国内の中産階級が貪欲な消費をかき立てるものは、自由な発想と、自由なヴァイタリティーが望まれるところである。これらの事柄は、現在の政治体制が足枷となっていくことが予想される。この面において経済でなしたケ小平のような大変革は出来るのか。ケ小平を超えるリーダーの登場を待つしかないと断言できそうだ。
中国の近々の問題として最重要なことは、政府関係者に巣食うシロアリの腐敗構造である。この問題は、政府と市場関係をどう捉え直すかということに尽きる。
体内にたまった脂身を一朝一夕に綺麗にすることは、そう簡単なことではない。